収益率の代わりに対数差分を用いられる理由
ファイナンスの世界でよくデータの対数をとってその差の系列を調べるといったことがあります。ファイナンスを勉強したての方は何故このようなことをするのか疑問に思うでしょう。本記事では収益率を対数差分で代用してもよい理由とその動機について個人的な見解を述べたいと思います。
収益率は対数差分で近似できる
今、ある証券の価格が (t=0,1,2,・・・)で時系列的に与えられるとしましょう。このとき、t期での収益率は以下のようにあらわされます。
例えば、t期で100円だった証券がt+1期で110円となったときの収益率は(110-100)/100=0.1となります。
ここで、x=0の近傍におけるlog(1+x)のテーラー展開を考えると以下のようになります。
よってlog(1+x)のx=0の近傍での1次近似は以下のようになります。
ここで上の式にを代入してみましょう。すると
となります。ゆえに収益率は対数差分で近似できるわけです。
なんでそんな回りくどいことするの?
普通に収益率を計算すりゃいいじゃんと思う方もいると思いますが、対数差分をとることにはいくつか理由があります。簡単に思いつく理由を列挙してみましょう。
以上の理由について具体的に説明しましょう。といっても理由1については特に言及はいらないですね。
理由2についてですが分散不均一構造とは何ぞやと思う人もいるでしょうから説明しましょう。分散不均一とは名前の通りで分散が一定ではないということです。時系列モデル等の誤差項の分散は一定であるという前提のもとで話が進むことが多いですが実際の時系列データの構造は分散は一定ではありません。株価チャートを見ればわかると思いますが比較的落ち着いた値動きをしていたと思えば激しくなったりしますよね。そのような分散不均一構造のデータに分散一定の過程をしいて分析を行おうとしたときなるべく理想と現実の乖離度を小さくするために対数変換を行おうといったところです。対数変換すれば変動幅は小さくなるので分散も一律に小さくなって差がなくなりますからね。
理由3については少し難しいのですが時系列解析の分野において定常過程(平均が一定であるような過程)を扱う状況が多くある中で実データは非定常過程(平均が一定ではなくトレンドがある過程)であることが多いです。そういった状況で対数差分系列をとることによって非定常過程を定常過程に変えることがよくおこなわれます。